3月8日(水)

なんとか間に合わせることができたレジュメでお茶を濁させていただきます。

      未来研究会 第33回レジュメ
                                                            2023年3月8日 
 今野晴貴氏著『賃労働の系譜学』

                             

第Ⅳ部 ポストキャピタリズムと労働の未来 (P199~304)
 第9章.日本の資本主義と「アフター・コロナ-生存権と賃労働規律       から読み解く」(P201~229)
 コロナ危機
 パンデミックとの闘争に耐え得ない資本主義体制の根本矛盾の諸々の現象についての指摘。⇒次第に壊されてきた医療や学術とコロナ危機の拡大の準備⇒危機の深化。
「私的生産主体の利益追求に経済活動が制約される資本主義的生産関係の矛盾」(P201最後の行)桎梏としての。

日本社会に特徴的な問題⇒「第一に、日本におけるコロナ対策が、市場社会に強く依拠するものだということである。それは、営業や外出の『自粛』(決して『禁止』ではない)に象徴的に表れており、後述するように、極端なまでの従属性と賃労働規律に基づく統治戦略だということである。()このような市場に依拠した統治戦略は、日本社会において歴史的に形成された社会統合様式の延長線上にある。第二に、一方で、コロナ危機をリーマン・ショック期の危機と比較すると、従来の社会統合の崩壊と新たな階層的特徴の形成を読み取ることができる。非正規雇用の増加と質的変化が、度重なる『危機』の中で、社会統合の在り方の転換を迫っているのである。第三に、それゆえ、今回の危機は、新しい主体と階級闘争を顕在化させている。」(P202)

 1 労働・福祉相談から見えること
  労働相談の内容(P203~208)=事例紹介。相談内容と一定の分析
 全労連・愛労連のコロナなんでも相談
  差別される非正規雇用(P205)
  「3密」労働の横行(P206・207)
  企業の自主性にゆだねる政府の労働政策(P208) 給付金、助成金 コロナ対策のあれこれ。

 2 労働・福祉相談から見えること
  市場による統治(P211~214)
 「コロナの感染リスクの他にも、長時間労働の職場への出向や、不慣れな仕事や、子育てや介護などの家庭の事情を考慮せずに遠方への出向を命じられてしまうかもしれない。たとえ、それほど酷い職場に異動するわけではない場合でも、不慣れな職場(しかも別業界の他社)への出勤を命じることは、労働者に相当の精神的・肉体的な負担を強いる。実際に、過労による精神疾患や自殺が生じた場合、その原因を評価する厚労省の『心理的負荷評価表』においても、不慣れな職場への異動は強い心理的負荷があるとして、過労自殺の原因として評価される。」(P214)
 「日本社会に強烈な賃労働規範が成立している」(P214)

   企業主義と「統治しやすい者」(P214~)
 「戦後日本の社会政策は一貫して企業主義的に編成されてきた。」
 「日本においては、企業や市場に極めて強く依存する社会統合の体制が形成されてきた」 「日本では個々人の『生存権』が尊重されず、企業や市場に依拠して生き残ることが奨励されてきた」(P215) まったく、同感!
 企業別労働組合の社会政策的に脆弱な「人権意識」を形成してきた否定的な役割。
 労使協調主義=資本への経済的隷属の集団的形態。⇒賃金奴隷制

 従順とテクノロジー
 「歴史的にみても、機械の導入や改良、あるいは労働の強度の緩和はすべて労働者の階級闘争やその成果としての労働規制の強化への対応の帰結であった。権利主張のない社会では、廉価な労働力に依存するためにイノベーションは制約され、あるいは極端に偏り、社会全体の健全性は損なわれてしまうということは、すでに明らかである。企業や市場の自主性に任せる日本の対策では満員電車が止められず、テクノロジーの適用が抑制されあるいは偏り、『3密営業』が横行し、今後も感染防止を実現することはできないだろう。」(P217)
 コロナについては、新規感染者数などの数字データは、多かったときとの比較でだけ減少と言っているので実は減っているという推移があるのみで減ったという認識と実感にはなりません。原因不明の死者の増加。後遺症の問題。5類化に伴う問題。マスクなど等 大変な状況が続いています。

 3 「危機」の比較と主体性
  リーマン・ショック期との比較
 「労働運動の現場では、企業主義的な社会統合の崩壊が、新しい階級闘争を生み出している。その端緒は二〇〇八年のリーマン・ショック期に現れた。リーマン・ショック期の階級闘争とコロナ危機におけるそれを比較することで、今日の日本社会の対抗図式を考察することができるだろう。」(P219)
 派遣切りとの闘争…全労連の派遣法に対峙してのたたかいの基本的とりくみ
 地方労働局需給調整事業部への集団申告-派遣先に対する団体交渉要求-派遣先をターゲットとしての裁判闘争の展開、当時のJMIUと全労連・全国一般の共同闘争-今日に続く栄総行動においてのたたかいの継続

 「二〇〇〇年代の雇用・階層構造の変化、『家計自立型非正規』の広がり」(P219)
 コロナ危機では、「雇用の受け皿」「セーフティネット」になっていた飲食店などのサービス業が、休業によって真っ先に崩れてしまった。これはリーマン・ショック期と比べても非常に重要な特徴。
 「第三に、一〇年間の労働市場の変化を反映し、リーマン・ショック期よりも顕著に問題化している新たな社会階層が存在する。まず、学生の貧困化である。学生の家計自立化(「学生の労働者化」と呼んでも良い)が進み、いわゆる『ブラックバイト』が二〇一三年から社会問題になっている。」(P222)
 外国人労働者

 階層構造の変化と労働運動
 女性・保育分野での闘争の諸相(P223~226)
 高島福祉会でのAさんのたたかい(P225)
 リーマン・ショック期の、派遣先企業に対する直接雇用を求めた運動と正社員化闘争とは、考え方を異にするように思うところがあります。(時間があれば口頭で)
 P226・227 曖昧な雇用形態である派遣という働き方・働かせ方と派遣法については、ILOの規定するような三角労働(雇用契約)関係のもとでも、直接的な労働現場においての実効的労務支配はまぎれもなく派遣先企業の指揮命令冷凍が実存しているのであり、この観点から雇用の調節弁・安上がりの労働力として職業的身分差別がおこなわれ、分断による支配が貫徹されていた事実を直視しなければならないのではないか、と思います。

 おわりにー「アフター・コロナ」に向けて
 「本章においては、コロナ禍における労働や福祉の実情を紹介しつつ、賃労働規律の支配に抗する新しい階級闘争が形成されつつあることを見てきた。そして、そのカギは企業主義社会統合の外部から新しい闘争が形成されることだということを述べてきた。こうした動きは、世界的な資本蓄積の行き詰まりと矛盾の深まりの中で、脱成長、気候変動対策と結びつきながら発展していくだろう。労働や福祉の現実から見たとき、そのような『闘争』の発展なくしてはコロナ危機を乗り越え新しい社会を展望することはできない。」
 一部の独特な見解を除き、方向性については同じ意見です!

 第10章.ポストキャピタリズム労働組合運動
    -AI、シェアリング・エコノミーは労働組合運動にどのような変化を迫るのか
 「AI・IoT技術の発達により、大幅に労働が不要になることが予測」⇒ 「近年の経済成長の限界、格差の極端な拡大、気候変動問題など」⇒「資本主義経済を『すでに機能していないシステム』、あるいは『』すでに終わったシステム』などと規定しており、ポストキャピタリズムを長期的に自明視する見方」⇒「資本主義システムはその経済的な『機能』を喪失しているにもかかわらず、むしろその本質は継続し、社会を引き裂いている。だからこそ、意識的にその弊害に向き合わなければならない。」 本章の問題意識
 機能不全のシステムの延命に根拠を持つ弊害としての生存権侵害

 1 ポストキャピタリズム労働組合運動
 AI・IoT技術の発達⇒「労働の形態が変容」⇒「この二つの変化は、これまでの労使関係や労働組合運動のあり方を根底から揺るがしている。端的に言えば、社会民主主義的な社会統合を追求する労働組合運動の戦略が根本から見直しを迫られている」(P232)
 「いうまでもなく資本主義的生産関係においては、資本家が労働力を購入し新たな商品を生産し、これを販売することで資本を蓄積する。ところが、新たな技術の発展に伴う生産力の上昇は非常に少ない労働力によってあまりに多量の商品を生み出すことを可能にするために、もはやこのような循環が不可能になるというわけだ。例えば、ジェレミー・リフキンは、一単位当たりの商品生産にかかるコストがほぼゼロになる『限界費用ゼロ社会』が到来することで、資本主義システムは根本的な変革を迫られると指摘している」(P232)
 技術労働者では、イノベーションのための研究職、計器監視労働・コンピューター画面による操作の自動化と生産ロボットの監視。文科系では資格取得による士業など。
 しかしより下層の人々の没落は過酷で悲惨な雑役、苦力的な重労働、ウーバー、長時間の長距離トラック運送ドライバー、若年女性の召使い化、キャバクラ嬢性風俗への性奴隷化の転落など。
 「AIやIoT技術の進歩によって、生産力の発展が資本主義の存立基盤を掘り崩すという古くからある問題が、より高度に現れている」(P233)
 「先進国においては労働が二極化し、あまりに多くの非正規雇用労働や『 無駄な労働』(ブルシット・ジョブ)が広がってきた。労働の疎外は極端になり、極右の台頭に見られるように従来の階級統合は深刻な危機に陥っている。そして、ますます生産力が発展し、相対的過人口が失業者や半失業者として増大する中では、もはや『労働』に紐付けられた社会民主主義的な主張はこの矛盾に解決策を与えないばかりか、生活保護バッシングのような労働者間の対立と敵対を再生産してしまう。同時に、地球環境問題の深刻化は、新たな需要喚起による資本蓄積と労働需要の増加を求めるケインズ主義政策を根本的に不可能なものにした。このように、『ポストキャピタリズム』の重要な論点は、労働者を賃労働と資本主義に縛り付けている社会民主主義の枠組みを乗り越えるところに置かれており、これは労働運動のあり方にも重大な変更を迫るものとなっている。」(P233)
 第二に⇒資本主義は自らの墓掘り人を育て上げる。
 新しい協業 シェアリング・エコノミー⇒生産主体の変容  (P234)
 2030年までに735万人の雇用喪失か?
 「実際に『自営業者』を装うことで労働法を潜脱する労働形態は古くから見られるものであり、今般の新しいとされる労働形態にも、労働法規範からの逸脱を企図した側面があることは間違いない」し、「実質的には古典的な募働にあたる場合がほとんど」(P236)  新しい外皮をまとった古くからある賃労働という本質-賃労働規律の支配
 「技術的・機能的には終焉に向かっているはずの資本主義システムの下で、むしろ人々が貧困と労働へとより強固に縛り付けられている現実を直視しなければならない(本書第3章も参照)。したがって、『ポストキャピタリズム』を構想する上では、資本主義的生産関係を再生産する賃労働規律をめぐって、社会のヘゲモニーをどのように変革するのかという議論が不可欠なのである。」(P236・237)

 2 労働組合運動のフォーディズム的編成
 「今日の生産関係においては、労働運動は社会運動と結びつきを強め、労働力のコントロールだけではない、資本主義的社会秩序にも挑戦するような『社会的ストライキ』を新しい戦術にすることができる」(P237)⇒20世紀型の労働組合運動の振り返り
 フォーディズム

「労働の衰退」後の「雇用」の特性
 資本家階級ははじめから生産手段所有により労働条件を支配している。
 資本の元への労働の実質的包摂は、機械制大工業にあって一応は完成し、資本主義が絶えず改革し続けなければ成り立たないことから、絶えず実質的包摂の内容も進化した。
 相対的剰余価値の生産並びに特別剰余価値について、マルクスは『資本論』において解明している。
 P238~244
 抵抗の類型と「資本主義の多様性」
 「労働組合運動には『フォーディズム型労働運動』乗り越えるモメントもまた、存在している。その意義を把握するためには、労働組合運動の原理を、二〇世紀より以前に遡って検討することが不可欠である。」(P245)
 労働市場規制と「労働の質」の規制
 もろもろの労働組合についての解釈的規定。職人組合から社会民主主義労働組合
 搾取とのたたかいの基準⇒マルクス労働組合の過去・現在・未来」

 3 アルゴリズム、シェアリング・エコノミー、アントレプレナーシップ
 アルゴリズムによる労働の知の集中
 「労働者の経験知の収集と分離はさまざまな業種で進んでいる。このようなビッグデータによる労働者の経験に基づいた知識の収集は、一度、情報収集機器が実装されれば、労働者の同意に基づくこともなく一方的に行われる。」(P253) 解法
 労働組合によるアルゴリズムへの対抗

 ケア労働における労働過程の自律性(P258)
 コロナ禍のもとでのケア労働者のたたかいの発展 「重要性を増すケア労働が、資本の従属下で行われずに自律的なシェアリング・エコノミーの形態で遂行されることは、『ポストキャピタリズム』の構想においては極めて重要な論点となる。この点においても、『ジョブ型』の労働組合運動は、その実現の有効な戦略であると考えられる。」(P259)
 労働市場規制と共同労働の促進
 4 労働者の相互敵対と賃労働規律
  賃労働者の相互敵対の完成
  賃労働規律への包摂の矛盾とたたかい 「資本蓄積の進展の中で、今や多くの労働は労働の規律を生み出すためだけの不要なものであり、働いている労働者たち自身が『無駄な労働』であると自覚している」(P262・263)
 ジョブ型労働運動の新たな陥穽(P264)
 UBIと自律性(P267)
 竹中平蔵のいうUBI構想の虚偽
 「労働と賃金を切り離すには、福祉国家における諸制度の存在が大前提」(P267)
 おわりに

 第11章.労働と資本主義の未来を考える(P271~304)
  本書の総括
 1 分岐する資本主義と労働の未来、「デジタル/テクノ封建制」の登場
 新自由主義か、社会民主主義か(P273~276)
  リストラと雇用流動化
 日本におけるジョブ型の労働改革論(P276~278)
  3つの類型での路線の比較
 テクノロジーで労働が減少する?(P278・279)
  デジタル/テクノ封建制
 デジタル/テクノ封建制の出現(P280~283)
  プラットフォームPF⇒5つの形態(P280・281)
  資本によるデータ独占
 支配し、支配されるための労働(P283~286)
 「『封建的』といえる経済の特徴は、富の拡大とその分配を行うのではなく、経済の規模は変化させず、富の収奪と移転が中心となること」 生産者の支配者への直接的隷属ではなく?
   「洗脳研修」P85
 封建制に組み込まれる「自律的労働」(P286・287)
 BIで実現する『マトリックス』の世界(P287・288)
 ほどほどにブラックでややグロテスクな社会階層の区分となかなかイヤになりそうな状況描写 「極端に機械化が進んだデジタル封建制において労働は、デジタル・システムを支えるハイクラスのエンジニアに加え、ブルシット・ジョブの従事者、製造業やIT業の下層でシステムを維持する労働者、そして、ウーバーなどの雇用(賃労働)外的に消費者に奉仕するギグ・ワーカーや、ますますテイラー主義化に服するケアワーカーへと階層化した社会になることが予見される。」(P287)
 新型コロナで加速する「デジタル/テクノ封建制」(P288・289)
 「コモンの再建」を目指す(P288~291)
  第四の路線としての「コモンの再建」
 社会の運営能力を取り戻す(P291・293)
 2 労働社会の「対立軸」の展望
 新自由主義からの転換(P295・296)
 「資本のストライキ」という隘路(P296)
 AI人材への投資さえおこなわれない日本(P297)
 ジョブ型の意義-労働能力の開発と自治の拡大(P298~300)
 ジョブ型の限界-賃労働への閉塞(P300)
 デジタル封建制からの発展(P301・302)
 「複線的」に進む社会変革(P302~304)
 多面的重層的な社会変革の総合的な前進を作り出していくために。
 「それぞれの運動の意義と方向性を理解し、連帯を模索することこそが重要であり、本書のマッピングはその役に立ててほしいと考えている。」(P304)


                                                                        以 上